第1回:Velo stlye TICKET
「前割れがあって動きやすいですね。」田中店長に前掛けを締めていただいた時の第一声は、色とか形のことでなく、使いごこちについてだった。日頃、どんな事を気にかけてお仕事をされているのか、よく解る一言で嬉しくなり、うんうんとうなずいた。
今回訪ねたVelo style TICKET 銀座店は、京都で自転車をつくっている工房「E. B. S」が母体となっているお店である。ママチャリしか乗った事がない私がお話を聞いてまず驚いたのが、パーツひとつひとつを溶接して組み上げている事。E.B.S の自転車は手仕事の積み重ねでできていた。
そして乗る場所・乗る人・シーンに合わせて、ギアを加えたり、サスペンションを付けたり、サドルを変えたり、乗りやすく組み替えられるのだと云う事。スポーツタイプの自転車は組み替えて乗るらしいとは知っていたが、普通の自転車も構造は同じなので、手を加える余地が最初から設計されているというのだ。
慣れ親しんだ道具の、基本の基を知らなかったショックはけっこう大きい。
見渡すとひときわ美しい自転車が置いてあった。Moulton(モールトン)博士が作る自転車でお値段は250 万円…これはもう人力を効率良く変換するアートだ。
店内はすべてがおしゃれで自転車は移動の道具以上のものだとよく解った。
最後に、田中店長が大事にしている道具を見せていただいた。出してきてくれたのは、七色のカラーリングが施された六角レンチのセット。整備にも組み立てにも毎日使う、基本の道具だそう。サイズごとに違う色で視認性が良く、目的のものを探しあてやすいに違いない。どれも万遍なく使いこまれていて塗装はずいぶん剥げていた。大阪のお店を離れる時にいただいた思い入れのある品で、もう13年使っているそうだ。これからもずっと田中店長の支えとなるのだろう。
今回見せていただいた自転車や使いこまれたレンチは、使い続けられる堅牢さと共に、使い手のことを考えたやさしさがあった。私たちも人の支えとなれる前掛けを作れるようになりたいと思う。
(文:橋本順子)